遥か彼方の天上の宮殿、星々の光が万華鏡のように乱れ輝くその場所に、月の女神セレナは静かに座していた。彼女の白銀の衣は夜風に揺れ、長い黒髪には無数の星の輝きが宿っていた。宇宙の誕生から現在まで、彼女は変わらぬ美しさで夜空を照らし続け、地上の人々を見守ってきた。しかし今宵、その瞳には深い悲しみの色が漂っていた。
地上では、かつてセレナが愛した人間の青年——星読みのソラが、老いによって命の灯を消そうとしていた。百年前、若き日のソラは夜空を仰ぎ「月の女神よ、あなたの美しさは永遠だ」と詩を詠んだ。その声はセレナの耳に届き、彼女は初めて胸の奥に温もりを感じた。しかし神と人間の間には越えられない壁がある。二人は言葉を交わすことなく、月夜のたびにただ見つめ合うだけの関係を続けた。時が経ち、ソラは白髪の老人となっても夜空を見上げ続けた。彼の目は衰えても、月を見るその瞳だけは少年のように輝いていた。
ソラが最後の息を引き取った瞬間、セレナは涙を流した。神は泣かないと言われている。神の感情は人間のそれよりも遥かに深く、広く、あるいは違う形で存在する——しかしセレナは確かに泣いた。彼女の涙は一粒一粒が満月の光を帯び、天上から地上へと静かに降り注いだ。その涙が大気に触れた瞬間、光の粒となって夜空に散らばり、新しい星座を形作った。夜明けを待つ人々は空を見上げ、今まで見たことのない美しい星の配列に息を飲んだ。それは後に「セレナの涙座」と呼ばれるようになる、新たな星座の誕生だった。
しかし物語はここで終わらない。セレナの涙によって誕生した星座の中に、ソラの魂が宿ったのだ。月の女神の愛は、死をも超えて愛する者を星へと変えた。今もセレナは夜空を見上げるたびに微笑む。なぜなら、彼女の涙が形作った星座の中で、ソラは永遠に輝き続けているのだから。地上の詩人たちはこの伝説を知り、こう詠んだ——「愛は星となり、星は語り、語りは永遠に」と。今夜、あなたが夜空を見上げて美しいと感じるその星は、もしかしたら誰かの愛が形になったものかもしれない。